大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(う)847号 判決

被告人 山崎幸司

〔抄 録〕

道路交通法は、第六十五条においていわゆる「酒気帯び運転」禁止の規定を設けているが、これを単なる訓示規定にとどめ、第百十八条第一項第二号前段において「酒気帯び運転」のうちのいわゆる「酩酊」運転に対してのみ特に罰則を定めている。しかして、右罰則によれば、「酩酊」運転の罪が成立するには、車両等の運転者につき酒気を帯びていたこと、すなわち身体に政令で定める程度(血液一ミリリツトルにつき〇・五ミリグラム又は呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム)以上にアルコールを保有する状態にあつたことと、さらにアルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態にあつたことの二要件の備わることが必要である。本件起訴状の訴因および罰条の記載によれば、検察官は、被告人に対し業務上過失致死傷の事実のほかに「酩酊」運転の事実を起訴したことが明らかであり、原判決の示す理由、ことに法令の適用として説示するところによれば原判決もまた被告人に対し公訴にかかる業務上過失致死傷の罪および「酩酊」運転の罪の成立をともに肯定したものと解される。しかるに、原判決は「酩酊」運転の前条に対応する罪となるべき事実については原判示第二において「前記のとおり昭和三十七年三月七日午後九時三十分ころ、宇都宮市飯田町二百十一番地先鹿沼街道において、酒気を帯び呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で普通貨物自動車(栃一す四七六九号)を運転した」と判示するにとどまり、被告人がアルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態にあつた旨の判示を欠いている。すなわち、原判決の右摘示事実は、それだけでは罪とならない「酒気帯び」運転の事実であつて「酩酊」運転の構成要件を充足しておらず、したがつて、原判決は法令の適用として右罪の罰条を掲げながら、これに対応すべき犯罪事実を摘示しないことに帰する。原判決にはこの点において判決に理由を付しない違法がある。

よつて、控訴趣意(量刑不当の主張)に対する判断は後に自判する際示されるので、ここでは省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百七十八条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所は次のとおり自判する。

(当裁判所の認定した原判示第二の事実に代るべき罪となるべき事実第二)

被告人は、昭和三十七年三月七日午後九時ごろから午後九時三十分ころまでの間、栃木県宇都宮市内の通称鹿沼街道において、身体に呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有し、かつアルコールの影響により車輛等の正常な運転ができないおそれがある状態で、普通貨物自動車(栃一す四七六九号)を同市西原本町方面より鹿沼市に向け運転したものである。

(証拠の標目)

原判決が原判示第二の事実につき挙示する証拠と同一であるから、これを引用する。

(法令の適用)

原判決の適法に認定した罪となるべき事実第一および当裁判所の認定した罪となるべき事実第二に法令を適用すると、前者は、いずれも刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項に、後者は、道路交通法第百十八条第一項第二号前段、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するところ、前者は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段第十条により犯情の最も重い業務上過失致死罪の刑に従い、以上は、同法第四十五条前段の併合罪であるから、業務上過失致死罪につき所定刑中禁錮刑を、道路交通法違反罪につき所定刑中懲役刑を選択し、刑法第四十七条本文第十条により重い業務上過失致死罪につき定めた禁錮刑に右第四十七条但書の制限に従い法定の加重をした刑期範囲内において量刑すべきところ、記録により情状を検討すると、被告人は、昭和二十八年から昭和三十七年までの間に、傷害罪により罰金刑に処せられること一回、無免許運転、無灯火運転、踏切の安全不確認、最高速度制限違反通行区分違反等の各種交通事犯により罰金刑もしくは科料刑に処せられること実に十三回に及び、しかも、最後の刑の言渡を受けてからわずか約一カ月半にして、さらに本件業務上過失致死傷および酩酊運転の各罪をあえて犯したものであることに徴すると、被告人は、遵法精神を欠如し、ことに交通法規を無視し交通の安全を阻害して恬として恥じない、きわめて危険な性格の持主と認めざるをえないのであつて、以上を勘案し、なお、本件各犯行の態様、罪質、過失および被害の程度、被告人の境遇、年令、犯罪後の情況その他諸般の情状を考量したうえ、前記処断刑の範囲内で被告人を禁錮八月に処し、原審における訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文によりその全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(坂間 栗田 有路)

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